ポルノ産業が集まるロサンゼルスの一角で産声を上げたブランドが、なぜパリのファッション界を征服したのか。Rick Owensという孤高の建築家が服で語る「廃墟の美学」を読み解く。
LAのアウトサイダーからパリの中心へ
1990年代初頭、ロサンゼルスのサンプル販売のバイトをしながらパターンを独学で学んだRick Owensは、最初から業界のルールの外にいた。ファッションスクールを卒業していない、パリのアトリエで修業した経験もない。あるのは、廃墟と神話と筋肉に対する偏執的な愛着だけだった。
2002年にパリへ移り、スポットライトが当たった瞬間、業界はこの男が「ただのニッチ」ではないことを理解した。Owensのコレクションは批評家を二分したが、着る者を選ばなかった ── 彼の服を着た人間は例外なく、自分を「何か大きなもの」の一部として感じた。
ドレープとデストラクション
Owensのシルエットを「ダーク」と呼ぶのは正確だが、不完全だ。彼の服には廃墟の美しさがある。崩れかけた建物が持つ、完成した建築には決してない偶然の優雅さ。
ドレープの使い方がOwensの最大の技法だ。非対称に垂れ落ちる布は、重力と身体の形にしたがって毎回異なる表情を作る。これは「着る」というより「纏う」に近い体験だ。アシンメトリーな襟、引き裂いたような裾、布が人体に落下する軌跡 ── すべてが計算された即興だ。
素材への執着
Owensが使う素材のリストは独特だ。
クレープ ── 柔らかく重く、ドレープが美しく落ちる。彼のパンツの「崩れた」シルエットを支える素材。 スクリム ── 粗い織りの半透明生地。レイヤリングの中間に使われ、下に着たものが透けて見えることで奥行きを作る。 バスケット編みのニット ── 粗い網状のテクスチャが、身体と服の間に空間を作る。 皮革 ── Owensのレザーは生硬さと柔軟さが共存する特殊な鞣しが施されたものが多く、着込むほどに身体に馴染む。
GEOPHYSICSとPODSとDUNK
コレクターが熱視線を送るシリーズとして、シューズのアーカイブが近年特に注目されている。
Geobaskets、Ramones、Dunks ── これらはOwensのシューズの中でも最も市場流通量が多いが、素材バリエーションとシーズン違いによって価値が大きく異なる。特定のシーズンにのみ製造されたファーライニングバージョンや、コラボレーションモデルは高値で取引される。
家具もインテリアも同じ哲学
Owensはファッションだけでなく、自ら設計した家具ライン「Rick Owens Furniture」でも同じ哲学を展開している。アルミニウムやコンクリートで作られた彫刻的な家具は、服と同じ世界観を共有する。
この「生活全体をデザインする」姿勢は、彼のブランドが単なる服のブランドを超えた理由の一つだ。Owensの世界に入った人間は、服だけでなく、空間と家具と身体ケアと食事まで、すべてを彼の哲学で統一したくなる。それは強力なブランドロイヤリティを生むと同時に、一つのライフスタイルイデオロギーでもある。
Rick Owensの服を着るとき、人は廃墟の中に立っている。そしてその廃墟は、完成した建築よりもずっと美しい。