ファッションが「黒・白・グレー」に傾きがちな時代に、Dries Van Notenは一貫して色と柄を使い続けた。彼のアーカイブが放つ花と異文化の洪水は、なぜこれほど「正しく」見えるのか。
色を使うことの勇気
ファッション批評の言語において「色を使う」ことは、しばしば「思想が軽い」と同義に扱われてきた。黒・白・グレーのミニマリズムが知性の証明とされた時代、Dries Van Notenは花柄のシルクシャツにチェックのウールパンツを合わせた。そして批評家は黙った。なぜなら、それが圧倒的に美しかったからだ。
Van Notenのコレクションに流れる一貫したテーマは「植物と記憶」だ。アントワープの実家の庭にあった花々、旅先のインドやペルシャで見た紋様、祖父の蔵書の挿絵 ── これらが数十年にわたるコレクションのモチーフとして繰り返し現れる。
アントワープ・シックスの職人
「アントワープ・シックス」の中で、Van Notenは最も「服を作ること」に愚直なデザイナーだ。コンセプチュアルな問いよりも、素材の選択・柄の配置・縫製の精度に全力を注ぐ。
彼がインドの刺繍工房、日本のテキスタイルメーカー、ヨーロッパの老舗プリントハウスと長年の関係を維持しているのは、その実直さの証明だ。Van Notenの服を購入したときに感じる「見えない場所にも手を抜いていない」という感覚は、この姿勢から生まれる。
テキスタイルの歴史書として
Van Notenのアーカイブは、一種のテキスタイル歴史書として読むことができる。
1980年代の初期コレクションにはベルギーの伝統的なリネン織物が多用されている。1990年代にはインド更紗やイカット、ブロックプリントが入り込み、コレクションに濃密な異国感をもたらす。2000年代以降は日本のジャカード織やデジタルプリントとの融合が進み、素材そのものが時代を記録している。
特定のシーズンのピースを手にとるとき、その布地にどの文化の技法が宿っているかを読み解く作業は、着ることと同等の喜びをもたらす。
コレクターが狙うべきシーズン
1990年代の「異文化混淆」期 ── インドのモチーフとベルギーテイラリングが激しくぶつかりあうシーズン群。現在のムードとも合致し、着用実用性が高い。
2005〜2010年の花柄ジャケット ── 大きく艶やかな花が全面に配置されたジャケット類は、Van Notenアーカイブの象徴。経年による色落ちが少なく、状態の良いものは今でも新品のように映える。
ショールカラーコート(各時代) ── 彼のアウターワークはどのシーズンも造形への執着が並外れており、20〜30年前のコートが現代のコーディネートに完全に溶け込む。
2024年の引退
2024年、Dries Van Notenはブランドを引退した。後継者は現在検討中だという。
38年間、1シーズンも休まずコレクションを発表し続けたデザイナーが静かに退場したニュースは、ファッション業界全体を静寂にさせた。彼の言葉 ── 「私は服が好きだ。服を着る人間が好きだ。それだけだ」 ── は、すべてのコレクターへの最良のメッセージだと思う。
Driesの服は、着るたびに色が深くなる。記憶が染みこむように。