デザイナーズアーカイブ

Dirk Bikkembergs ─ アスリートと哲学者が着る服

Digr. 編集部

アントワープ・シックスの中でも最も「肉体」に向き合ったデザイナーがDirk Bikkembergsだ。スポーツと高級服の境界を壊し、サッカーと服を融合させた男の美学を紐解く。

身体という彫刻

Dirk Bikkembergsのデザインは常に「身体」から始まる。アントワープ・シックスの中でも、彼は最も明示的に男性の肉体美に向き合ったデザイナーだ。

筋肉の隆起を強調するシルエット、皮革とゴムのストラップが身体に巻き付く構造、身体の動きを妨げない機能的カット ── これらは身体を服で隠す発想ではなく、服が身体と共に存在することを前提にしている。


スポーツとラグジュアリーの融合

1990年代以前、スポーツウェアと高級服は別の世界に属していた。スポーツは機能的でなければならず、高級服はそれを超えた「美」を追求するものとされた。

Bikkembergsはこの二元論を拒否した。ランニングシューズにヒールを付け、サッカースタジアムをショーの舞台にし、スポーツ選手をモデルに起用した。2002年にはイタリアのサッカークラブ「ACスポルティング・ルッカ」のオーナーになり、試合前に選手全員に自ブランドのコレクションを着させるというパフォーマンスまで行った。


シグネチャーのシューズと革紐

Bikkembergsのアーカイブで最も認知度が高いのはシューズだ。特に革紐(ラス)を使ったブーツとシューズは、彼の美学の最も純粋な表現として評価が高い。

デコルティケ(骨格露出)のような構造的なデザイン、革紐のクロスパターン、ゴム底の機能的美学 ── これらが組み合わさったBikkembergsのシューズは、現代のボリューミーなフットウェアトレンドとも共鳴し、若い世代のコレクターからの需要が増している。


アーカイブの希少性

Bikkembergsは他のアントワープ・シックスに比べてアーカイブの流通量が少ない。ブランドが2010年代以降大きく方向性を変えたこと、デザイナー本人が服作りから距離を置いた時期があることなどから、「本物のBikkembergs哲学が宿るアーカイブ」は限定される。

1990年代のシューズ・ブーツ ── 状態の良いものは国際的にも希少。革の状態と革紐の完全性が価値を決定する。 1990年代のメンズジャケットとコート ── テイラリングとスポーツ機能性の融合が最も顕著に表れた時代のもの。

Bikkembergsの服は走ることができる。それでいて、哲学を持っている。

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